×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


芦辺 拓『不思議の国のアリバイ』 -森江春策シリーズ(7)-
1) 青樹社 刊/四六判ハード/1999年9月10日付初版/本体価格1500円/1999年9月21日読了
2) 光文社 刊 / 文庫判(光文社文庫所収) / 2003年07月20日付初版 / 本体価格533円

青樹社版<作品概要>

 初期は登場するたびに職業が違ったが、最近は弁護士稼業に漸く腰を落ち着けた森江春策――彼を探偵役とするシリーズの通算7冊目、長篇としては6作目となる芦辺拓の最新作である。本編からエラリーに対するニッキー・ポーターのような助手・新島ともかも加わり、いよいよ芦辺拓のお抱え探偵としての地位を確立したようだ。
 大阪の<栄光映像>撮影所にて撮影が進められていた特撮映画「大怪獣ザラス・復活編」。スタッフの大量離脱によって、本業はライターである遠野聖滋を急遽監督に抜擢したりと騒動が絶えなかったが、プロデューサー・光岡潤子らの尽力によって制作はどうにか軌道に乗り始めた。だがそこに、業界に於いて「乗っ取り屋」の二つ名で知られる監督・青蓮院文彦が、自らの知名度を盾に作品の横奪に乗り出してきた。青蓮院の名に惑わされる上層部に対して、光岡は敢然と遠野の続投を宣言する。再び活気を取り戻したかに見えた現場に、さらなる災厄が襲いかかる。かつて撮影スタッフの大量離脱に一役買った業界ゴロ・熱川一朗が自宅にて惨殺屍体で発見され、容疑者として遠野聖滋が拘束されてしまったのだ。彼の嫌疑を晴らして欲しい、という依頼を受けた森江春策だったが、その矢先に青蓮院文彦が福岡県の甘木市で遺体となって発見されるに至り、いよいよ事態は紛糾する。果たして森江は、遠野聖滋の無辜を証明できるのだろうか――?

※ ※ ※

光文社文庫版<深川's Review>

 タイトルからも解るとおり本編の主題はアリバイ工作にあり、プロローグの組み立てからしてアリバイ崩しの大家・鮎川哲也への強烈なオマージュとなっている。前半のやや説明的に過ぎる台詞や文章が鼻につくが、テンポに乗ってしまえば殆ど気にならない。肝心のアリバイトリックは近年稀にみる複雑怪奇さで、一度読んだだけではなかなか理解できないが、それこそが作者の狙いであろう。トリックを知ったあとでプロローグから反芻してみると、味わい深いものがある。犯人の設定など、下手をすればやたら読後感が悪くなってしまう処を綺麗に片付けたのもいい(もっとも、あそこまで上手くいくと御都合主義というか予定調和を感じてしまうのだけれど……)。ひたすら緻密な本格ミステリを望む向きには絶好の一品である。
 舞台を特撮映画業界に置いているため、本編では屡々特撮映画のマニアックな知識が披露される。あまりにマニアックすぎて大半の読者には(深川も含めて)理解不能だが、その辺の蘊蓄を空気として楽しむのもいい。
 挿話。作中にて遠野が不調になった制作の憂さ晴らしに過日の名作『妖星ゴラス』のビデオを借り、自宅で観賞する場面がある。そこで遠野は『妖星ゴラス』に匹敵する大仕掛けを、と考えているうちに何故か壮大なアリバイトリックを考案してしまう。ここで深川はちと首を傾げた。そのトリックが、あるミステリの名作に登場するトリックと酷似しているのだ。何か含みでもあったのかと思い、某掲示板で御本人に向かって問い質したところ、全くの偶然だったそうな。あくまでも『妖星ゴラス』の大仕掛けから敷衍して案出したもので、どうやらミスディレクション的な含みがあったらしい。因みに問題のミステリとは辻真先『アリスの国の殺人』――いやはや。

(1999/9/22・2003/07/09文庫判書影追加)

他の芦辺拓単行本レビュー

単独名義
『殺人喜劇の13人』 / 『保瀬警部最大の冒険』 / 『殺人喜劇のモダン・シティ』 / 『歴史街道殺人事件』 / 『時の誘拐』 / 『明清疾風録』 / 『地底獣国の殺人』 / 『探偵宣言』 / 『死体の冷めないうちに』 / 『十三番目の陪審員』 / 『不思議の国のアリバイ』 / 『名探偵博覧会 真説ルパン対ホームズ』 / 『怪人対名探偵』 / 『和時計の館の殺人』 / 『時の密室』 / 『赤死病の館の殺人』 / 『グラン・ギニョール城』 / 『名探偵Z 不可能推理』 / 『メトロポリスに死の罠を』 / 『明智小五郎対金田一耕助 名探偵博覧会II』

芦辺 拓全単行本リスト

芦辺倶楽部(芦辺 拓ファンによるページ)へ移動する