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芦辺 拓『和時計の館の殺人』 -森江春策シリーズ(9)-
 1) 光文社 刊 / 新書版(カッパ・ノベルス所収) / 2000年7月25日付初版 / 本体価格819円 / 2000年8月3日読了

カッパ・ノベルス版<作品概要>

 素人探偵・森江春策を道化役とする一連のシリーズ九冊目、長篇としては八冊目に当たる。
 森江春策はかつて世話になった弁護士・九鬼麟一の代理として、先頃没した資産家・天知圭次郎の遺言書を彼の相続人らに渡す役割を担い、愛知県の片田舎にある日計(ひばかり)という村落を訪れる。そこで森江を待ち受けていたのは、人相を包帯で覆った怪しげな男……のみならず、故人が没前まで収集・研究に情熱を注いだ和時計の数々であった。屋敷の中央に聳える塔時計を筆頭に、屋内に夥しく陳列される、今は昔の時を刻むからくりの群。
 大阪で森江の留守を預かる助手・新島ともかの邪な期待を余所に、遺言書の公開は何の滞りもなく終了した――かに思われた。手違いから即日の帰阪が不可能となり、『和時計の館』に一泊する羽目に陥った森江の、まさに目前でそれは発生する。森江自身がその一部始終を目撃した殺人事件は、しかし状況を洗い出すごとに不可解なものに変容していく。彼が目の当たりにしたものは、密室殺人に他ならなかったのだ――!
 邸内に並ぶ和時計の存在と、あまりに怪しげな親族たちの行動とに翻弄され事件の全体像すら把握できない森江探偵と捜査陣。困惑する彼らを余所に繰り返される殺人。素人探偵・森江春策はこの錯綜する事態から如何なる結論を導き出すのだろうか――?

<深川's Review>

 田舎町、所有者の歪な情熱によって構築された異空間、彼の死によって集う曰くありげな親族たち、公開される遺言状、それを契機に勃発する連続殺人、右往左往する捜査陣、そして最後に謎を解く名探偵。横溝正史らに親しんで本格推理を知った者にとって懐かしい道具立ての中に展開する、真っ向勝負のストレート本格ミステリである。不可能興味に満ちた殺人と、館に陳列されその混迷に油を注ぐ数多の和時計の異様な存在感。この舞台に置くと善良すぎる森江春策の造形があまりに浮いてしまうのが難だが、この先達に対する敬意の溢れた様式美はお見事。
 で、肝心のミステリ部分はどうかと言うと……ちょっと拍子抜けした。道具立てや各種の伏線を寄り合わせたトリックとその解明は上手いのだが、登場人物一人一人の行動に説得力がない――事件を斯様に複雑にしてしまった彼らの行動に動機付けや理念が窺われないため、終盤で語られる真相は、現象としてはあり得るのだろうが、いまひとつ腑に落ちない。なまじ謎であったときに魅力的な状況であったこと、作品全体を貫く一つのからくりが実に巧妙であったこと、その二点がなまじ秀でているために、カタルシスの乏しさが惜しまれるところである。
 楽しみ方としては、解決の鮮やかさよりもその整った世界観と全編を貫く趣向の着地の巧みさを堪能するべきか。ともあれ、近年稀なオールドファッションの芳香が心ゆくまで味わえる一篇と言えよう。

 芦辺作品はその過剰とすら思えるサービス精神が魅力の一つ(時として足を引っ張っている場合もなきにしもあらずだが……)であるが、本書に於いてもその性質は遺憾なく発揮されている。坪井令夫警部補に小高監察医(生憎私は後者についてモデルとなった人物をよく存じあげていないのだが……)、また全編に渉って森江探偵の案内役となる千夏香子。何より、解決編に至って森江春策に施されるあの扮装。行き過ぎとか必然性を問う声もあるだろうが、ここは素直に楽しんでおきたいところ。

(2000/8/4)

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単独名義
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