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芦辺 拓『保瀬警部最大の冒険』
1) 角川書店 刊/新書版(カドカワノベルス所収)/1994年1月25日付初版/本体価格777円/2000年2月6日読了

カドカワノベルス版<作品概要>

 第一回鮎川哲也賞受賞後、沈黙を守っていた著者が初めて書き下ろした第二長篇(※但し、刊行は第三長篇と相前後しており、執筆時期はほぼ同時であったと思われる)。絢爛たるトリックの狂想曲といった印象のある前作とは大幅に趣を違えた、スラップスティック冒険活劇である。

 古色蒼然たる舞台設定の中で繰り広げられた連続猟奇殺人、その幕を名探偵たる主人公・保瀬七郎警部が今しも降ろさんとしていたその時、窓の破砕音と共に無粋な銃弾が犯行には一切無縁だった筈の少女の命を奪い、それとともに殆ど何の脈絡もなく上を下への追跡劇が幕を開ける。事態は狙撃手が仲間より容赦ない切り捨てを受けたことで一旦収拾するが、一夜明けて、Q市長・茂山雷蔵の許に「計画・Q実行委員会」なる連中から異常な脅迫状が届けられた――それはQ市と隣接するT市が互いの全住民の生命を担保に行う凶悪なるオークションへの招待状であった。戸惑う彼等の眼前でQ市長の娘・茂山茉美が拉致されそうになるも、保瀬の機転により茉美は無事救出される。そして暴漢らの痕跡を辿った保瀬は、計画の手始めに放たれんとしていた小型ミサイルを辛うじて排除するも、結果としてそれは、世界征服というやったらアナーキーな野望を掲げる一大組織・始祖鳥に、保瀬が付け狙われる契機となってしまった。斯くして、追う者追われる者の立場を一転二転させながら、近畿・中部地方(狭い)を右へ左への、支離滅裂阿鼻叫喚、熱狂的な一大活劇の幕は切って落とされたのである――

※ ※ ※

<深川's Review>

『殺人喜劇の13人』にせよ続く『殺人喜劇のモダン・シティ』にせよ他ならぬ本編にせよ、芦辺氏の途方もないサービス精神の発露として捉えられる。一難去ってまた一難、ひっきりなしに趣向を凝らした刺客が送られてくるかと思えば、息を吐く間もなく保瀬らの緊張感溢れる――と喩えるには些か間の抜けた追跡劇が再開され、読者を飽きさせまいとする。加えて、そこここに盛り込まれた名作映画や怪奇映画、無論のことながらミステリと、作者の博覧強記ぶりを物語って縦横に展開するパロディの数々。
 だが、惜しむらくはその展開のスピーディーさと碩学さ、そして特徴のある外連味の濃い筆致とが互いに相殺しあって、読み手のテンポによっては却ってだれてしまうのだ。前半ではその豊富な造詣の披露が鼻につくし、それに慣れてくる中盤以降は、切れ切れに読むとその均整の取れた文章が徒となってひとつひとつの展開の類似が際立ち、展開を平板に見せてしまう。従って本書は、取り敢えず披瀝される知識が理解できる出来ないは余所に置いて、解らないところはある程度斜めに読んででも一気に通読してしまうのが最善と思われる。そうすれば、恐らくは作者が一番願っていたであろう冒険活劇の魅力を存分に堪能できる筈である。
 ――つまりまあ、私がそんな風に読んで、失敗してしまった、と痛感しているからこう申し上げるのだが。しかし、覚悟を決めて一気に読もうと思った第三部からは、怖ろしく素早く読めたし、何よりその荒唐無稽な展開(何せゴジラまで出しちゃったし)も充分に楽しめた。固いことはあまり考えず、最初は素直に読み進めるのが吉。
 付け加えると、本書にあっては装画挿画を担当したトニーたけざき氏も作品世界の確立に貢献している、と思えた。本編の文脈から敷衍して意表を突いたイラストを用意しており、それが読む上で保瀬七郎という破天荒なヒーローの立ち居振る舞いを容易に想像させる一助となっている――ただ、それが果たして作者の望んでいた像なのかは、取り敢えず私には断言できないのだけれど。

(2000/2/6)

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単独名義
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